「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」(2017年度 基盤研究(A)課題番号︰17H00912 研究代表者 伊藤鉄也)

第5回「海外における平安文学」研究会報告(2015/02/27)

2014年度 伊藤科研 第5回研究会
日時:2015年2月27日(金)16:30〜18:00
場所:大学コンソーシアム・キャンパスプラザ京都 第2演習室(5階)

2月27日(金)キャンパスプラザ京都にて、第5回研究会を開催しました。

参加者:伊藤鉄也、荒木浩、清水婦久子、ラリー・ウォーカー、須藤圭、マリアエレナ・ラッフィ、テレサ・マルティネス・フェルナンデス、庄婕淳、川内有子、淺川槙子(以上11名)

●2014年度の研究報告
1. 翻訳から見た日本文化の変容 −各国語訳『源氏物語』訳し戻しと調査研究−
 現在、32言語中8言語について訳し戻しが終わっている。このうち、スペイン語訳の約し戻しのデータを第3回研究会(6月6日開催)で公開し、「国文学研究資料館蔵『源氏物語団扇画帖』」事物索引」にある語の比較検討を行った。その結果、儀礼・行動に関する語と植物に関する語でさまざまな訳出がされていることがわかった。時間の関係上、抽出した語に偏りがあったため、来年度も継続して調査研究を進める予定である。スペイン語以外の言語についても、随時、調査研究を行う。

2. 『十帖源氏』の翻訳と研究
「桐壺」巻の現代語訳を多言語に翻訳し、日本文化の変容をみるものである。今年度は以下の言語について、母語話者・非母語話者に翻訳を依頼した。英語、スペイン語、イタリア語、ヒンディー語、ウルドゥー語の5言語である。

3. グロッサリーの研究と編纂
『世界へひらく和歌』のうち、海野圭介氏の論文「「読み」の歴史―中世における古今和歌集の読み解きをめぐって―」の日本文と英文を対照にした表を作成した。

4. 調査・本科研HPについて
(1)科研サイト「海外源氏情報」について
運用報告については、『日本古典文学翻訳事典1』と『ジャーナル1.0』を公開した次の月の総アクセス数が多い。海外よりも日本からのアクセスが多いが、不正アクセスも多い。
(2)利用可能なサービスの紹介
・科研活動の報告(本科研の詳細情報、計画のあらまし、研究成果、研究会報告など)
・最新源氏物語関連情報の更新
・『日本古典文学翻訳辞典1』のPDFファイル・ダウンロード(※2013年度研究報告書)
・『海外平安文学ジャーナル』のPDFファイル・ダウンロード
・源氏物語翻訳史/平安文学翻訳史の公開
・翻訳−源氏物語・平安文学論文検索機能
・論文(PDFファイル)ダウンロード
・海外−源氏物語・平安文学論文検索機能(※源氏物語のみ実装)
・『源氏物語』原本データベース
・『十帖源氏』論文リスト
・『十帖源氏』原本データベース
・平安文学関連Webサイトリスト

(3)更新通知用ツイッターの運用開始
2015年2月3日から、HP更新通知用にツイッターの運用を開始した。

5. 報告書・論文集関係
『海外平安文学研究ジャーナル』(ISSN番号 2188−8035)の第1号(1.0)を2014年11月末に発行した。第2号(2.0)は2015年3月11日に発行予定である。当日は暫定版の第2号(2.0)を回覧した。また『海外平安文学ジャーナル』のダウンロード方法について説明があった。

(1)簡単なアンケートに回答後、パスワードが表示される。
(2)ジャーナルの詳細ページに戻って、ダウンロードする。パスワードを求められるので、(1)で入手したパスワードを入力する。詳細は科研サイト内の「『海外平安文学研究ジャーナル』のダウンロード方法」(https://genjiito.org/cms/howtodaunload/)を参照のこと。

●グロッサリー試行版テキストの公開とディスカッション
(発表者:海野圭介先生)
作成の現状と課題について、試行版テキストの公開を含めてディスカッションを行った。
1 現状−試行版テキストの作成と公開
『世界へひらく和歌』(勉誠出版、2012年)に掲載されている海野圭介氏の論文を対象として、試行版テキストを作成した。英文を日本語に対応させる形で区分けし、完全に一致しない場合は、枠を広げて表示した。また、キーワードなどは設定せず、任意の語彙を検索対象とした。

2 課題
・定義付けは必要であるか
・著作権の問題をどう対処するか

3 意見
・文学では語義の定義付けは少ないのではないか。
・語義を定義付けする場合は、平板的な意味にする必要がある。このグロッサリーに掲載されている意味が、他で使うことができないのでは意味がない。
・日本語の論文に英訳の要旨や付いている雑誌があるので、そういった雑誌を発行する機関の許可を頂ければ、容易にできるか。

●2015年度の研究計画
(担当者:伊藤鉄也先生)
1. 翻訳から見た日本文化の変容 
(1)各国語訳『源氏物語』の訳し戻しを使った調査研究の継続
 第3回研究会で公開した、スペイン語訳の訳し戻しデータを整理して、資料集の形で公開する予定である。この他、訳し戻しデータが存在する言語についても同様に行い、研究会等で公開していきたい。
(2)最終年度刊行予定の『日本古典文学翻訳事典2』の解題作成と編集
 この事典は、英訳以外の言語で翻訳された平安文学(『源氏物語』を除く)を集めたものである。現在、既存のデータの整理を行いつつ、解題作成と調査研究を行っている。

2. 『十帖源氏』の翻訳と研究
 来年度は、既に依頼している以下の言語についての多言語翻訳を基礎として、調査研究を進めたいと考えている。

3. グロッサリーの研究と編纂
 最終年度での完成・運用にむけて、本格的に研究と編纂を進める予定である。

4. 調査・本科研HPについて
 本科研HP「海外源氏情報」で公開しているデータベースについて、情報の追加・訂正等を随時行う。研究の状況によっては、新規のデータベースを作成する場合もある。

5. 報告書・論文集関係
『海外平安文学研究ジャーナル』(ISSN番号 2188−8035)の第3号・第4号を発行する。本科研の連携研究者・研究協力者のうち、執筆していない方の論文を積極的に取り上げたいと思っている。

●『源氏物語』末松英訳初版表紙のバリエーションについて
(発表者:ラリ-・ウォ-カ-先生)
 レベッカ・クレメンツ氏の調査によると、初版本は320冊中242冊が販売され、78冊が翻訳者に進呈されている。世界中の図書館に50冊くらいの初版本が所蔵されている。今回は以下の三冊の表紙についての発表であった。
(1)初版本 Trūbner社 1882年 定番の本
(2)初版本 Trūbner社 1882年 表紙は赤と銀で彩色されたもので、題名が黒字で書かれている。
(3)再製本した初版本  灰色の表紙に金字で題名が書かれている。
 この3冊を比較すると、内容は同じであることがわかる。中でも(2)の本は珍しいものである。全部で300部発行され、同じ本が京都大学法学部図書室に所蔵されている。
 当日、(2)と同じ表紙を持つ本を清水先生にお持ち頂いて、参加者で回覧した。この本もTrūbner社から1882年に刊行されたもので、上記の3冊と内容は同じ本であった。奥付はない。

●諸連絡
【研究会の日程】
 来年度は年2回を予定している。第6回(通算)は8月21日(金)か22日(土)(於:国文学研究資料館)、第7回(通算)は2016年2月中旬(於:京都)を予定している。

【ジャーナル発行の予定】
第3号は2015年9月30日発行予定(7月31日原稿締め切り予定)
第4号は2016年3月15日発行予定(1月31日原稿締め切り予定)