海外源氏情報

『海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究』
2013年度 基盤研究(A)課題番号:25244012 研究代表者 伊藤鉄也

サイトの諸注意・情報提供

目的 / 意義 / 概要

梅はじめに〜海外翻訳文学の中の平安文学

 この研究は、日本で平安時代の文学を研究する者が、海外の研究者と協力して実現するものです。海外を視野に入れた、『源氏物語』を中心とする研究情報の総合的な調査を踏まえ、海外における日本古典文学の受容と研究の歴史を総整理することを目ざしています。また、江戸時代の縮約版『源氏物語』である『十帖源氏』の多国語翻訳を通して、日本文化が変容して伝えられていく様子と文化理解についての共同研究も展開します。その過程で、平安文学に関する専門用語の英語表現について、参考情報群をグロッサリーという形で編纂し提案することまでを視野に入れています。

日本古典文学の中でも、『源氏物語』を中心とした平安文学の研究は、日本国内外において精力的に行われています。しかし、日本を代表する古典文学『源氏物語』でありながら、海外の研究に関する情報を国内外の研究者間で共有することはできていません。一部の研究者が個人的な交流の中で得た情報に留まっているのが現実です。また海外においても、研究状況の把握は充分になされていません。 海外における日本文学研究で、最近の成果としては、『越境する言の葉―世界と出会う日本文学』(日本比較文学会、2011年)がよく情報を掬い上げています。それでも、平安文学に限って見ると、資料と情報に遺漏が多いのです。

本研究では、世界各国における日本古典文学に関する実態調査(研究機関・研究者・研究成果・翻訳書等)に基づき、受容と研究の歴史を総合的に整理します。それと共に、『十帖源氏』の多言語翻訳と研究を踏まえて、日本文化の海外における変容を共同研究のテーマとします。同時に、研究用語のグロッサリー(日本語版)も、その中で集積・整理していきます。これは、インターネットを活用したコラボレーションと、毎年実施する国際日本文学研究交流集会で確認し、推進するものです。  具体的には、調査・研究・翻訳・編纂に関する活動を通して、情報交換をする中で研究成果を集約していくことになります。

梅研究の背景〜多言語で楽しまれる時代を受けて

梅1. 国内外での研究動向及び位置づけ

世界文学の中に位置づけられる日本文学は、今や、多言語によって理解される時代となりました。日本文学への理解と研究において、この研究は、『源氏物語』を仲立ちとして、各国との文化交流の上で重要な役割を果たすものになると確信しています。ここで創出し収集し整理する情報群は、日本文学の本質理解への多面的な刺激と具体的な方策を与え、今後の海外における日本文学研究の基盤整備となり指針となるはずです。

これまでに、安永尚志氏(国文学研究資料館名誉教授)による「国際コラボレーションによる日本文学研究資料情報の組織化と発信」(科学研究費基盤研究(S)、2001年〜2005年)の成果として、「日本文学国際共同研究データベース」が国文学研究資料館から公開されています。このコンテンツは、圧倒的に情報量の多いイタリアとフランスの日本文学関係の情報に特筆すべきものがあります。この中で、インドに関しては本科学研究代表・伊藤鉄也が担当しました。 しかし、研究期間の終了以後、情報の更新は行われていません。この中断している情報を引き継ぎ、2005年以降の最新情報によってさらに拡大し、再編集する必要があります。ただし、本研究では、日本文学の中でも『源氏物語』を中心とする平安文学に限定して取り組んでいきます。

梅2. 着想に至った経緯

海外における日本文学研究の実状と概要は、容易には知ることができません。諸外国の数多くの研究者が、日本文学に関する研究成果を積極的に情報として発信しています。しかし、インターネットでその成果が確認できるとはいえ、まだまだ情報源に偏りがあるのです。 研究代表・伊藤鉄也は、文献のデータベース化と海外との共同研究に関して、2001〜2009年度までの9年間にわたって科学研究費補助金(萌芽的研究・基盤研究(B)・基盤研究(A))による支援)を受けて、多くの成果を公開・公表してきました。この研究は、それを総合的に整理し定位します。

海外の研究者との共同研究では、具体的な作品として江戸時代の『十帖源氏』を取り上げます。 『十帖源氏』は、江戸時代初期に成立した『源氏物語』全54巻を各巻別に平易なことばで縮約した作品です。『源氏物語』は長編小説であり、読破するには多大な労力を伴います。それを解消すべく、分量を縮小して平易にした『十帖源氏』を素材にして、多言語翻訳を行います。

また、日本文学研究語彙の英語表記に関する情報は、求められて久しい課題でもあります。日本文学の研究・翻訳に関連する基本的な概念や語彙を、英語でどう表記すればいいのかを検討・研究し、その対応する英語による言い換えを確定していくのは時代の要請といえるでしょう。『コロンビア大学現代文学・文化批評用語辞典』(松柏社)や、”The Princeton companion to Classical Japanese Literture” (Princeton Univ Pr.)などの参考書は重宝します。しかし、日本文学に関しては同様の書籍は皆無なのです。これについては、科研費による「国文学データベースのコンピュータ同義語辞書の基礎的研究」(代表者:新井栄蔵、1992〜1994年度)において着手された経緯があります。その成果はその後、国文学研究資料館において修訂され、一部ではあるが英文表記も追補して報告されました。それも、現在の研究者が共有するまでには至っていません。このデータを再検討し有効活用することにより、共同研究の中で練り上げ育てていきたいと考えています。

梅研究の目標と意義〜次世代の育成を見据えて

梅1. これまでの研究成果の発展

本研究代表・伊藤鉄也が過去9年間で取り組んできた科研費研究の成果をふまえ、この研究期間内に次項に掲げる3点をさらに強化発展させます。従来のように海外ではなく、日本で開催する国際日本文学研究交流集会は、重要なコラボレーションの場として機能することになると確信しています。海外における研究レベルの向上と若手研究者の育成にも貢献していきたいと考えています。

梅2. 4年間で何を明らかにするのか

本研究期間に取り組み、解明する目標は次の3点です。

(1)世界各国31言語で翻訳された『源氏物語』の総合的調査を実施し、受容・研究史を整理
(2)江戸時代の縮約版『源氏物語』を多国語翻訳し、日本文化の変容と理解について共同研究
(3)平安文学を語り・記述するための専門用語の英語表現を、グロッサリーの形で編纂し提案

いずれも、海外の研究者との共同研究により、具体的な成果物(刊行及びウェブ公開)として結実させることになります。そして、これらをまとめる過程で、研究者のネットワークの形成も実現する予定です。

梅3. 本研究の特色と意義

本研究課題は、海外における日本文学研究に関して、英語のみならず、各種言語で公表されたものに対応するのが特徴です。そして、外国語訳等を日本語に引き戻して、その訳し戻した情報や資料を活用して研究を推進すします。多言語情報を日本語で一元化し、多角的に考察する環境を提供するのです。このことにより、言語という障壁が軽減され、日本の研究者が、海外における日本文学研究の現場に参加できるようになります。

日英の研究語彙対照資料(グロッサリー)は、日本文学の今後のさらなる国際的な研究に資するものとなります。  現状では、基礎情報であるはずの日本文学研究関連の情報の整備について、海外分が大きく欠落しています。本研究は、『源氏物語』をはじめとする平安文学を中心として、海外の日本文学研究に関する情報を再構築し、さらに発展育成するという意義を持っています。

梅研究計画と手法〜各国の研究者とともに

梅1. 調査研究について

この調査研究は、次の3群で構成されています。それぞれの内容と主たる担当者は、以下の通りです。

(1)翻訳から見た日本文化の変容 (伊藤鉄也、荒木浩、海野圭介、藤井由紀子)
各国の平安文学に関する翻訳書を整理し、それを日本語に訳し戻して基礎資料とします。翻訳を通して、日本文化が変容して伝えられていく諸相と実態を確認します。

(2)『十帖源氏』の翻訳と研究 (伊藤鉄也、清水婦久子、高田智和)
日本側で作成した平易な現代語訳を活用して各国で翻訳を進めます。各国の翻訳の訳し戻しを基礎資料として、国際集会で共同討議を行ないます。

(3)グロッサリーの研究と編纂 (伊藤鉄也、マイケル・ワトソン、ラリー・ウォーカー、野本忠司)
日本文学を英語で読み書きするための平安文学用語の英語訳を編纂し提示します。これにより、日本文学が世界文学の仲間入りをする上での問題を解決することになります。

この3群を4年間にわたって推進する過程で、海外の研究者との情報交換を密にし、恒常的な人的ネットワークを構築します。これは、今後につながる貴重な財産となるものです。 また、日本とイタリア(最終年度のみ)で開催する国際日本文学研究交流集会における講演・シンポジウム・研究発表の成果は、ウェブを通して情報を共有します。

梅2. 計画の実行について

この過計画着実に実現するために、次の細目を4年間で実施します。

(1)【調査活動】研究論文と翻訳書を調査し収集整理  コラボレーションを通して基礎資料を作成し、海外における受容と研究の諸相をまとめます。

(2)【研究活動】翻訳における日本文化の変容
-1)『源氏物語』の翻訳を日本語に訳し戻す
確認済みの全言語で翻訳されている第1巻「桐壺」と第5巻「若紫」を対象とします。
-2)翻訳の訳し戻しから日本文化の各国における移し替えの実態を研究する

(3)【翻訳活動】各国語への翻訳を通して日本文学への理解と若手研究者の育成 -1)『十帖源氏』の多言語翻訳は各国の翻訳技術の向上が期待できる -2)翻訳対象言語:英語・中国語・インド語(ヒンドゥー語)・イタリア語・スペイン語等 (すでに研究代表・伊藤鉄也が完成させた現代語訳を、各国の研究者翻訳家の支援のもとに翻訳)

(4)【訳語編纂】グロッサリー(日本語版)の作成
-1)これまでに国文学研究資料館で作成したデータの総整理
-2)翻訳用語の採択の再検討と確定を海外の研究者を交えたコラボレーションで実現

(5)【情報交換】研究者ネットワークの形成
-1)研究者ネットワーク形成のための調査
-2)海外での新世代である学生たちとの情報交換

(6)【成果発表】研究発表および講演・シンポジウムの開催とウェブ公開
-1)日本での国際日本文学研究交流集会で研究発表の場所と課題を提供し若手を育成
-2)ウェブで情報共有  研究情報や成果はウェブを活用して発信し共同研究態勢を構築します。
-3)報告書の刊行(毎年度作成) (日本文学関連の特性として印刷物が求められるため)

梅3. 海外共同研究者について

これまで調査研究を通して、本研究に理解と協力が得られている海外共同研究者とともに研究を進めていきます。 (随時更新)

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