海外平安文学研究ジャーナルvol.3.0
伊藤鉄也 編/2015年09月30日発刊(非売品)
●目次
あいさつ 伊藤 鉄也 p3
本紙『海外平安文学研究ジャーナル』(オンライン版、ISSN:2188-8035)は、昨秋平成26 年11 月に電子ジャーナルとして創刊し、異分野の方々にも温かく迎えていただくことができました。そして今、その第3号ができましたのでお届けします。
研究会拾遺 モンゴル語訳『源氏物語』について 伊藤鉄也 p11
ジャルガルサイハン・オチルフー氏によるモンゴル語訳『源氏物語』において、翻訳されなかった場面と描写(刈り込みの手法)を確認し検討する。以下で「刈り込み」と言うのは、物語本文の一部を省略して翻訳することを指すものとする。また、ここでは考察の対象を第1巻「桐壺」に限定していることも、あらかじめお断りしておく。
研究会拾遺 『源氏物語』末松英訳初版表紙のバリエーションについて ラリー・ウォーカー p42
1882 年に『源氏物語』最初の英訳が英国のTrübner 社により出版された。翻訳家の末松謙澄は当時イギリスに留学していた。末松は英語が雄弁で、ケンブリッジ大学の法律学部を卒業した。末松の英訳は17 章まで、全54 章の約三分の一を訳したが、近年の研究によると、登場人物を落とすことやこの英訳の政治的な動機、日本で源氏物語と紫式部のとらえ方などが集中的に多くなっている(e.g. Clements, Emmerich, 伊藤)。
研究会拾遺《コラム》 日本でも出版された末松謙澄訳『源氏物語』 淺川槙子 p46
ここで、日本で出版された末松謙澄訳の『源氏物語』について簡単に補足したい。沼澤龍雄著『日本文学史表覧』の「外国語譯國文學年表」 によると、明治14(1882)年に丸善商社から出版されたとなっている。
研究会拾遺 各国語訳『源氏物語』「桐壺」について 淺川槙子 p48
本科研の課題のひとつ「1. 翻訳から見た日本文化の変容」は、世界各国32 言語(2015 年8月現在)で翻訳された『源氏物語』の総合的調査を実施し、受容・研究史を整理することである。具体的には2013年度から、各国語で翻訳された『源氏物語』の日本語への訳し戻しと、翻訳情報の整理として「『源氏物語』翻訳史」の公開を行っている。
研究会拾遺 各国語訳「桐壺」翻訳データについてのディスカッション報告 p77
1. 各国語訳『十帖源氏』「桐壺」について 2. 各国語訳「桐壺」(『源氏物語』『十帖源氏』)について
翻訳の現場から 『十帖源氏』の英訳の感想 ジョン・C・カーン p87
『十帖源氏』は17 世紀の源氏物語の梗概書で、おそらく初めて外国語に訳された梗概書である。なぜいままで訳されていないのか、という質問ははっきりと答えられないが、外国語訳の価値があるかどうかについての疑問があると思う。『源氏物語』は現代語訳でだれでも読める時代には梗概書が必要ない、と思う人はいるであろう。しかし、数百年の間、原文より梗概書が読まれていたので、その時代の人の考えや批評が梗概書に含まれている。
翻訳の現場から 『十帖源氏』英訳所感 緑川眞知子 p89
「一心三観」(“threefold contemplation in a single mind”)など仏教用語などは、日本研究の世界で一般的になって標準的に使われる英語訳があるので、そういうものをなるべく使うようにしました。呼称や官職名については、タイラー訳に倣いましたが、タイラー訳では特殊な訳語を用いている例もあります。これもできるだけスタンダードになっている英訳があるので、日本人が訳す場合は、自分で新しく英語訳を提出するのではなく、英語圏日本研究の世界で一般的に使われている表現を使っていく方が良いという気がいたします。
翻訳の現場から 『十帖源氏』スペイン語翻訳における文化的レファレンスの取り扱い 猪瀬博子 p91
「源氏物語」と聞いたときに、私達一般読者はある漠然とした世界、イメージを思い浮かべる。それは例え学問的な知識に基づいたものではなくても、平安貴族、宮廷、御簾に几帳、香を焚き染めた紙に書かれる文や和歌等々の「小道具」に彩られたものであり、読者の頭の中で光源氏の物語がひもとかれるのは、このような世界においてである。そして多くの読者にとって、これらの様々な「小道具」や慣習(袴着の儀、御幸、五節の舞……)の名前たちが織り成すイメージを堪能することこそが、源氏物語の世界に浸るということではないだろうか。
翻訳の現場から 『十帖源氏』「桐壺」巻のウルドゥー語訳によせて 村上明香 p99
ウルドゥー語はパキスタンの国語(National Language)であり、インドでは憲法によって22 の指定言語(Scheduled Language) 1 のひとつに定められている。宗教や地域の垣根を越えて、インド亜大陸の広域な地域に居住するあらゆる宗教集団の成員によって話されているが、過去300 年、その主たる文学言語として使用してきたイスラーム教徒と密接な関係を維持している。
研究の最前線 スペインにおける平安文学事情 清水憲男 p105
2,3日前までスペイン北部の、居住者8人という山奥の寒村で、昔馴染みの古書店主の自宅にお世話になっていました。想像を絶する田舎でインターネットはおろか、携帯の電波も届きません。ある程度の資料を自分のオンライン・ストレージからタブレットで起こして、今回ご依頼いただいた拙稿を準備せんとの企みは挫折し、泥縄状態で慌てています。
研究の最前線 新刊紹介:朴光華著『源氏物語―韓国語訳注―』(桐壺巻) 厳教欽 p109
今回、伊藤鉄也先生のご依頼で、韓国の鮮文大学校の朴光華先生による『源氏物語―韓国語訳注―』(桐壺巻)を紹介することになりました。私は『源氏物語』専門ではなく、その周辺の知識も浅い上に紹介文というもの自体を初めて書きますので、朴先生の御著書についてどこまで紹介できるのか不安ですが、いささかでも紹介できれば幸いです。
【付録】各国語訳『源氏物語』『十帖源氏』「桐壺」翻訳データ(スペイン語・イタリア語) p117
各国語訳『源氏物語』・『十帖源氏』「桐壺」翻訳データ/源氏物語』「桐壺」(スペイン語・イタリア語)/『十帖源氏』「桐壺」(スペイン語・イタリア語)
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