研究と成果研究計画のあらまし
要 旨
本課題では、世界各国における日本古典文学に関する実態調査(研究機関・研究者・研究成果・翻訳書等)に基づき、受容と研究の歴史を総合的に整理します。それと共に、『十帖源氏』の多言語翻訳と研究を踏まえて、日本文化の海外における変容を共同研究のテーマとします。これらは、インターネットを活用したコラボレーションと、毎年実施する国際日本文学研究交流集会で確認して推進していくことになります。
具体的には、調査・研究・翻訳・公開に関する活動を通して、情報交換をする中で研究成果を集約していくことになるもののです。
たとえ思うような成果がまとまらない事態が生じたとしても、ここで構築を目指している各種情報の総整理に対する視点と、そこから生み出されたデータは生き続けます。日本古典文学を世界に広め、相互理解を深める上において、貴重な研究情報の公開となり成果となるはずです。
平成29年度の計画
初年度は上記すべての内容について着手し、今後4年間の準備と展望の確認を行なう予定です。最初に手がけるのは、翻訳文献資料の調査収集と各国語訳を日本語に訳し戻すことです。
まず、海外で刊行された文献資料を再確認します。これは、『日本古典文学翻訳事典1〈英語改訂編〉』と『日本古典文学翻訳事典2〈平安外語編〉』を基本情報として調査を進めることになります。訳し戻しについては、すでに着手済みの『源氏物語』に加えて、『古今和歌集』『伊勢物語』『宇津保物語』『蜻蛉日記』『枕草子』等の諸作品を対象とする予定です。日本人研究者と、翻訳された現地の研究者との双方での共同作業となるものです。
『十帖源氏』の多言語翻訳については、すでに着手している第1巻「桐壺」と第5巻「若紫」に続き、第12巻「須磨」と第13巻「明石」を開始する予定です。『源氏物語』は54巻あり、これはほんの一部にしかすぎません。しかし、ここで作成される多言語翻訳の成果は、今後の全巻翻訳のための基盤構築となるものです。
「第1回 国際日本文学研究交流集会」は東京で開催します。テーマは「海外で翻訳された平安文学の諸相」です。これは、これまでの成果を踏まえて、今後の展開を見据えたものとします。
本科研に関わるメンバー内では、年間3回の情報と意見を交換する会合を持ち、研究と成果を討議していきます。その内の1回は、外部の研究者に向けての公開研究会とし、海外からゲストを招いて実施する予定です。
なお、『源氏物語』の英訳研究における第一人者である緑川真知子氏(早稲田大学講師)からは、研究協力者として本課題に全面的な支援が得られることも特記しておきます。緑川氏の『源氏物語英訳についての研究 — 翻訳された『源氏物語』の捉え方についての細密なる検証』(武蔵野書院、2010年)は、2011年度第12回紫式部学術賞を受賞しています。
また、本研究の代表者である伊藤鉄也のこれまでの科研で、研究員として淺川槙子氏が研究協力者として本研究を支えてきました。本科研でも、これまで同様に協力が得られることになっています。
平成30年度の計画
前年度を継承した研究活動を展開します。基本的には、これまでに継続してきたことと、持ち越された課題を扱うことです。
異なるのは、スペインで「第2回 国際日本文学研究交流集会」を実施することです(予定)。テーマは「文学の舞台環境と国際的な文化理解」とします。これは、過去にスペイン・マドリッド・アウトノマ大学で開催された国際集会と関連させています。「慶長遣欧使節団派遣400周年」の記念事業として、平成25年10月にスペインで国際集会 「スペインにおける日本年」が開催されました。この研究集会に、本課題申請者の伊藤が招待され、「スペイン語に翻訳された『源氏物語』」と題する発表を行ないました。その時の人的なつながりと研究テーマの継承が、ここでスペインの地を選択した理由です。
平成31年度の計画
当年度も、前年度を継承した研究活動を展開します。基本的には、これまでに継続してきたことと、持ち越された課題を扱うことになります。
異なるのは、作成した各種基礎データとその加工データの確認と調整に着手することです。
研究を進める中で解明されたことが、この時点で、すでにこれまでの科研費研究で伊藤が構築した情報群に付加されることになるのです。
「第3回 国際日本文学研究交流集会」は京都で開催します(予定)。テーマは「『十帖源氏』の多国語翻訳から見た文化の変容」です。これまでの「桐壺」巻と「若紫」巻に加えて、本課題で取り組む「須磨」巻と「明石」巻が議論の中心となります。
平成32年度の計画
本応募研究課題の最終年度である。ここでも、前年度を継承した研究活動を展開します。基本的には、これまでに継続してきたことと、持ち越された課題を扱います。
異なるのは、インドで「第4回 国際日本文学研究交流集会」を実施することです(予定)。
テーマは「海外における日本文学の受容と研究」とします(予定)。世界各国で、日本文学が研究されてきた歴史を確認し、これまでの問題点の整理と、これから取り組む課題や、将来的な展望を討議することになるのです。
最後の国際交流集会をインドで開催するのは、平成28年11月に本研究課題の前身である「海外における源氏物語を中心とした平安文学及び各国語翻訳に関する総合的調査研究」(25244012)の成果を、「第8回 インド国際日本文学研究集会」で取り上げたことと連動させるためです。これにより、前科研の4年間と本科研の4年間の、都合8年間の成果が完結することになるのです。
準備状況及び研究成果の発信方法
本申請課題のメンバーは、これまでにさまざまな科研に関わってきた者が主力です。直接会っての協議・研究が行える状況にあります。研究協力者等とは、すでにこれまでの『源氏物語』に関する科研や学会や研究会等で研究協力関係にあります。本科研においては、年間2回の国内外での研究会と、メールを主体とした連絡体制をとることとなります。さまざまな局面で研究協力が可能なチームが編成できているのです。
さらに、国内外の研究者と共に、継続して国際日本文学研究交流集会等を実施し、各国各大学の研究者との協力関係を密にしていきます。また、ウェブサイト「海外源氏情報」を通して、国際社会に研究成果としての情報を発信していきます。その成果は、『海外平安文学研究ジャーナル』(2016年10月現在、既刊5巻)ですくい上げて、研究環境を活性化していくことになります。