海外平安文学研究ジャーナルvol.5.0
伊藤鉄也 編/2016年09月21日発刊(非売品)
●目次
あいさつ 伊藤 鉄也 p3
平成 26 年秋に創刊したオンライン版『海外平安文学研究ジャーナ ル』(ISSN:2188 ー 8035)は、お陰さまで好評のうちに号を重ね、今号 で5冊目となりました。
研究論文 「中譯本《源氏物語》試論-以光源氏的風流形象為例」 朱秋而(翻訳:庄婕淳) p11
林文月先生が1973 年4月から1978 年12 月にかけて台湾大学外国語学部の刊行物『中外文学』に連載していた『源氏物語』の訳注は、この重要な日本古典文学作品の最も早く公表する中国語訳本である。千余年に亘り、明治以前に至るまで、多くの場合は日本が中国文学と文化の薫陶を受けてきた中日文学交流史の中には特別な意味を持つことである。仮名文学である『源氏物語』は日本人が漢字で書いた作品、例えば我が国の人が隔てなく読める漢字漢文などと異なり、漢訳本がなければその内容を知ることは不可能に近い。林先生の翻訳は疑いなく広い中国語の世界に真に日本文学の精髄を窺える重要な道を開いてくれたと言える。林先生は紫式部の千古な知己とも言えるだろう。
翻訳にあたって 庄婕淳 p33
林文月先生訳の『源氏物語』を拝見したのは、2013 年の春でした。それ以来、毎日拝読しているだけでなく、京都で伊藤鉄也先生主催の「ハーバード大学本『源氏物語』を読む会」と「『十帖源氏』を読む会」に参加する際、いつも座右の書として、参照させていただいています。いずれは研究の対象としたいとその時から考えています。
研究論文 「忠こそ物語」と継子いじめ譚 趙俊槐 p34
「忠こそ物語」が元来継母が継子をいじめるという、いわゆる継子いじめ譚として読み取られていることは言うまでもない。継子いじめ譚といっても、内典と外典という二種のものがその背景にある。森田実歳氏は仏教経典のクナラ太子譚をはじめとして、古代インドの大長編叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』、さらに古代ギリシアまで遡って、特に「究察モチーフ」(父は究察せずに息子や後妻を懲罰する)に重点を置き、継子いじめは古代世界において共通的な話種だという結論を出し、「忠こそ物語」もこのような背景のもとに生まれたものだとしている。
研究会拾遺 ウォッシュバーン訳『源氏物語』の問題点 緑川眞知子 p61
デニス・ウォッシュバーン氏(Dennis Washburn、ダートマスDartmouth 大学準教授。イェール大学出身。近現代文学)による『源氏物語』の英訳が2015 年に発刊された1。タイラー訳が出てから14 年ほどしか経過していない。1976 年のサイデンスティッカー訳からタイラー訳が出るまでには四半世紀を要し、またこの期間は、欧米における日本研究の伸張と深化という大きな変遷の時期でもあり、新しい英訳の必要性の意味と価値がはっきりしていたことを考えると、2015 年のウォッシュバーン訳は、かなり速いスピードでの新英訳の出現ということになり、その意味においても何故新しい英訳がこの時期に必要であったのかという、その出版の意義は殊更見えにくい。出版の経緯についての詳しい事情はわからないが、そもそもは非常に著名な翻訳者、樋口一葉の英訳の傑作と言われる翻訳を成したRobert Danly 氏(1947-1997) が『源氏物語』英訳の仕事を請け負ったそうである。しかし氏の病気により中断し、その後をデニス・ウォッシュバーン氏が引き継いだという経緯があるようである。
研究会拾遺 スペイン語版・英語版・フランス語版『伊勢物語』7 種における官職名の訳語対照表 雨野弥生 p76
本稿で示す表は、『伊勢物語』に出現する語彙のうち「大将」「中将」をはじめとする衛府官人および「馬の頭」「大臣」について、7種類の翻訳版の訳語を比較したものである。対象とした翻訳作品は、スペイン語版カベサス訳、ソロモノフ訳、マス訳の3種と、カベサス訳に先行する英語版3 種、フランス語版ルノンドー訳である。
付録 中国語訳『源氏物語』の書誌について 淺川槙子 p85
本科研のHP「海外源氏情報」内の『源氏物語』翻訳史年表では、現在200 件を超える翻訳書籍のデータを公開している。そのうち、57 件が中国語に翻訳された書籍である。中国語訳の『源氏物語』のうち、簡体字によるものは昭和32(1957)年に銭稲孫が「桐壺」巻を翻訳したのが始まりで、繁体字による翻訳は昭和48(1973)年に林文月氏が『中外文学』に連載したのが始まりである。
【付録】各国語訳『源氏物語』『十帖源氏』「桐壺」翻訳データ p99
各国語訳『源氏物語』・『十帖源氏』「桐壺」翻訳データ/『源氏物語』「桐壺」(中国語)
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