海外平安文学研究ジャーナルvol.2.0
伊藤鉄也 編/2015年03月11日発刊(非売品)
●目次
あいさつ 伊藤 鉄也 p3
昨秋平成 26 年 11 月に創刊した『海外平安文学研究ジャーナル』(オンライン版、ISSN:2188-8035)は、異分野の方々にも温かく迎えていただきました。そして今、その第2号ができましたのでお届けします。
カナダ国際研究交流集会特集 英訳された『枕草子』が作り出した大衆文化 ゲルガナ・イワノワ p11
日本で最も頻繁に見られる清少納言のイメージは、白楽天の詩から引用された香炉峰の雪のエピソードに基づいた、御簾を巻き上げている姿である。『枕草子』は『源氏物語』としばしば対比されるが、日本国外での『枕草子』像・清少納言像はどうであろうか。文学作品像とその作家像が国境を越えた時、どのように変わって行くのであろうか。本論文では、『枕草子』の英訳が海外での『枕草子』像・清少納言像の享受史にどのように影響してきたのかについて考えてみたい。
カナダ国際研究交流集会特集 小説として読まれた英訳源氏物語 緑川 眞知子 p22
アーサー・ウェイリー(Arthur Waley)訳の源氏物語初版表紙のほぼ中央に「この物語は11 世紀の日本の宮中に仕えた女性(宮中女房)の作品です。現存する優れた長編小説のひとつだということが、一読直ぐさまわかると思います」という惹き句がある。原文は、This tale is the work of a Japanese Court lady of the eleventh century. It is believedthat it will at once be recognised as one of the greatest long novels inexistence である1。「物語」と訳した語は、英語ではtale であるが、その直ぐ後には「長編小説のひとつ」とnovel の単語も使われている。ウェイリー訳源氏物語が出たころは、いわゆる小説と邦訳されるnovel の概念が、おおよそのところ現代において認識されるnovel の概念としてかたまりつつあった時代である。「物語」の訳語については後述する。「小説」として認識される作品において、必ず意識されたのは「作者」である。紫式部の石山寺執筆伝説は有名であるが、明治時代という早い時期にはじめて源氏物語を英語にした末松謙澄は、見返しに紫式部石山寺執筆の図を挟んでいることからもわかるように、この時代作者は大きな存在であった。
カナダ国際研究交流集会特集 1955 年のサイデンステッカー訳蜻蛉日記について 川内 有子 p37
『蜻蛉日記』は、サイデンステッカー(Edward G. Seidensticker)を嚆矢として、マッカラ(Helen Craig McCullough)、アーンツェン(Sonja Arntzen)と、現在までに主に3人の翻訳者によって英訳がなされてきた。サイデンステッカーの翻訳は1964 年に書籍として刊行されたものが『蜻蛉日記』の初めての全訳として知られているが、その9年前にTransaction of Asiatic Society of Japan の誌上に発表された全訳についてはあまり知られていない。ここでは、サイデンステッカーによる翻訳の1955 年版と1964 年版の比較を行い、『蜻蛉日記』受容史上であまり省みられることのない1955 年版の個性について考えてみたい。
カナダ国際研究交流集会レポート 海野圭介 p50
東京にくらべ一足先に秋の訪れが感じられる9 月終わりのバンクーバーで、上記科研費研究プロジェクトによる主催により、ブリティッシュ・コロンビア大学のジョシュア・モストウ教授(Prof. JoshuaMostow)のご協力を得て、日本文学の翻訳に関するシンポジウムが開催された。
カナダ国際研究交流集会特集 新出資料『蜻蛉日記新釈』(上・下) 伊藤鉄也 淺川槙子 p54
『源氏物語』の研究者として『源氏物語の研究 —創作過程の探求—』(武蔵野書院、1975 年)の業績のある小山敦子先生に、偶然のことながら今回お目にかかる機会を得た。小山先生は昭和49(1974)年に、本論文により東京大学で学位を取得された。
『源氏物語』韓国語訳と李美淑注解『ゲンジモノガタリ1』 李美淑 p63
2014 年10 月30 日、韓国において3番目の『源氏物語』韓国語訳の第1冊がソウル大学校出版文化院から筆者の注解で刊行された。2007 年瀬戸内寂聴の現代語訳の韓国語訳をも入れると韓国において4番目の『源氏物語』の韓国語訳になるが、一応原文に即したと標榜する韓国語訳としては3番目の試みになる。これまで『源氏物語』全巻の韓国語訳は1973 年と1999 年2度にわたって刊行されたが、『源氏物語』研究者による全巻の翻訳・注解書は未だに出ていなかった。そこで、今回刊行された『ゲンジモノガタリ1』は韓国初の『源氏物語』研究者による全巻の翻訳・注解書の第1冊目ということになる。
スペイン語に訳された『源氏物語』の書誌について 淺川槙子 p69
日本文学は古典・近現代作品を問わず、世界各地で翻訳されている。そのうち、古典文学で最も多くの言語に翻訳されている作品は『源氏物語』である。伊藤鉄也氏のご教示によると世界で32 言語に翻訳されている。それでは具体的に、どの言語に翻訳された本が一番多いのか。同氏監修の「『源氏物語』翻訳史」によると、アーサー・ウェーリー(Arthur Waley)のThe tale of Genji を初めとして、英訳された本が圧倒的に多い。フランス語訳とスペイン語訳がそれに続く。翻訳者に焦点をあてると、フランス語訳では、ルネ・シフェール(René sieffert)訳のLe dit du Genji を重版したものが最多である。特に、近年刊行されたフランス語訳『源氏物語』は、シフェール訳の重版である。以下、「『源氏物語』翻訳史」を参考にまとめる。
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