「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」(2017年度 基盤研究(A)課題番号︰17H00912 研究代表者 伊藤鉄也)

朝顔 海外平安文学研究ジャーナルvol.8.0


伊藤鉄也 編/2021年03月31日発刊(非売品)

  • 目次
あいさつ 伊藤鉄也 p3

2017年4月から4年間の計画で取り組んだ、科研費(基盤研究A)「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」(17H00912)も、早いもので最終年度となりました。

研究発表 『万葉集』のドイツ語訳について

-1930年代以降の翻訳を中心に- フィットレル・アーロン p11

『万葉集』は19世紀から西洋の諸言語に翻訳されているが、日本古典文学の中で最も早く西洋に伝達されたものも、日本最古の和歌集の一首であるとされている。それはドイツの東洋学者ハインリヒ・ユリウス・クラプロート(Heinrich Julius Klaproth, 1783~1835)によって1834年に作られた『万葉集』4097番歌のフランス語訳である。もっとも、これはクラプロートがシベリア滞在中に出会った、読み書きのできない日本人の漂流者や漁師にその内容を伝えられて作ったもので、厳密な意味での翻訳ではないといえる。

研究発表 Transcreation(翻訳創造)としてのウェイリー訳 -原典とadaptationの間をみつめる- 緑川 眞知子 p58

イギリスの英文学者ジュリー・サンダース氏は、「リライトはリライトを産み出す」と、その著書 Adaptation and Appropriationにおいて書いている。翻訳という行為も巨視的に見るなら、原作のリライトであると言えよう。しかし大半の翻訳者は原典に忠実であろうとする。何を基準に忠実だと判断するかは非常に難しいし、古典作品の場合はその原典とは何かとの定義さえ揺れているが、おおよそにおいて誠実であろうとする翻訳者は原典への忠実性を重要視するであろう。

研究発表 20世紀初頭のフランスにおける『枕草子』受容 常田 槙子  p71

作品をいかにジャンル分けするかということは、しばしば問題になる。例えば、『源氏物語』は世界文学として享受されるときnovelにジャンル分けされるが、『源氏物語』をnovelと位置付けてよいのかということはよく耳にする。同じように、『枕草子』もよく「随筆」に区分されるが、果たして「随筆」と言ってよいのであろうか。稿者は、『枕草子』を「随筆」とカテゴライズすることに懐疑的であるが、本稿では『枕草子』のジャンルについて、フランス語訳を通して検討してみたい。特にその最初期の翻訳とそこでの作品紹介を見てみると、「随筆」ないし「エッセイ」と位置付けるあり方を問い直すような視座が認められるように思うからである。

研究発表 翻訳機を使った翻訳についての調査報告 吉見 さえ p85

近年Google翻訳や翻訳機などの機械翻訳はますます精度を高めている。近い将来に機械翻訳が実用的なレベルまで開発が進めば、人間が翻訳する必要がなくなるのではないかとも言われている。一方で、自然言語処理の研究者たちは、依然として機械翻訳には人間の翻訳に匹敵するだけの高度な翻訳を行うに至らない重大な課題があると指摘している。伊藤科研では様々な言語の平安文学の翻訳本を扱っている。その内容の理解にこれらの翻訳機を用いることができるかどうかと考えたのが、今回の調査の始まりである。現在、日本の古典文学作品は世界中40以上の言語で翻訳されている。しかし学習者が少ない言語ほど情報が少ないのが現状である。こうした翻訳機の精度が高まっていけば、海外における日本古典文学の翻訳・受容に関する研究はますます活発になるのではないだろうか。今回は以上の状況を踏まえて、「翻訳機は海外の翻訳文学研究においてどの程度使えるのか」という問いを検討することとした。

研究発表 日本古典文学翻訳本の分類及びデータベース化の現状と課題 -伊藤科研所蔵書籍の場合- 吉村 仁志 p93

現在、伊藤科研所蔵の平安文学の翻訳関連書籍は約370冊あり、上代・中世も含めると400冊を超える。これらを出張授業や講演会で持ち出す際、持ち出す書籍のリスト作成や現在の配架場所の確認にあたって管理を容易にするために、書籍毎に一意の記号が必要となった。そこで、図書館の請求記号は言語毎に分類できないなど不都合が生じるため、独自の記号を作成した。書籍の管理はExcelで行ない、検索、ソート、フィルタリングが容易にできるようになっている。本稿はその実態に関する報告と考察である。

研究会拾遺 百人一首の翻訳実践 -和歌における夜明けの表現の模索- 飯塚 ひろみ p103

執筆者はかつて,百人一首歌のフランス語訳における夜明けの表現について考察した。その過程において,「l’aube」「l’aurore」「le point du jour」「le petit matin」といった訳語を確認した。いずれも「有明」「暁」「朝ぼらけ」を表すものとして用いられたものである。

研究会拾遺 翻訳された「十二単」 淺川 槙子  p108

日常的に日本文学や日本文化に親しんでいない人間が、「平安時代」と聞いて、まず頭に浮かべるものはどのようなものであろうか。十人十色であると思われるものの、美しい着物を何枚も身にまとった、長い黒髪の優雅な女性の姿を浮かべる人も多いのではないかと思われる。それでは「女性が着ている装束は何と言うか」と尋ねれば、ほとんどの人が「十二単」と答えるのではないだろうか。中には、「十二単」と聞いて、雛人形の女雛が着ている着物を思い浮かべる人もいるだろう。近年では「特別な着物の1つ」として結婚式で着用する人もいることから、一般的には大変認知度が高い装束となっていると思われる。しかし、周知のとおり、「十二単」というものは、私たちがイメージする装束の正式名称ではない。

付録 『源氏物語』「明石」ロシア語 土田 久美子 p137

ロシア語訳『源氏物語』「明石」データ

付録 『源氏物語』「須磨」機械翻訳 吉見 さえ  p164

『源氏物語』「須磨」(ロシア語・機械翻訳)―3つの翻訳機の翻訳結果―

執筆者一覧 p285

執筆者一覧

編集後記 p286

編集後記

研究組織 p287

研究組織

 

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